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交渉が失敗するとき

アメリカのジョン・F・ケネディ元大統領にこのような名言があります―「恐怖にかられて交渉をしてはいけない。だが交渉するのを恐れてもいけない」。 しかし、私たちは交渉することを恐れてしまうものです。 要求が多すぎないか、少なすぎないかが心配なものです。 そして「ネゴシエーター」と聞くと、自分たちとは全く違った、冷たい血の流れた強面の人物を想像してしまいます。

しかし実は、私たちは誰もが家族や友人たち、または企業と日々交渉を行っています。意思決定、方向性の選択、そしてアイディアへの他者の同意を必要としています。そしてそのために妥協したり、他の案を優先させて自分の案を諦めなければならないこともあるものです。ところが、交渉の方法について指導を受けたことはありませんから、通常は素人の空回りになってしまっています。

さて、ある時あなたは営業担当となり、バイヤーと交渉すべき立場となります。 調達担当者は交渉に長けている場合が多く、あるいは少なくともあなたの提供する商品の価値について耳を貸さないでしょう。とはいえ、日本においては、調達担当者は専門職であることが少なく、かなり初歩的なアプローチをとっていることが多いのです。

彼らの手にしているスプレッドシートには、左一列にあなたの名前を含めた競合各社の名がずらりと記入されていることでしょう。表所上部には製品名が記されます。対応する枠に価格を記入し、 最安値の枠の会社から購入するというやり方です。これではいけませんね。あまりに初歩的な基準で判断しているため、あなたが提供できるかもしれない価値を差別化する余地がないのです。こうした場合には社内から応援を得て、品質に見合った対価を得られるよう対抗する必要があります。

ここでまず、調達担当者の介入しない、通常の交渉の例を確認してみましょう。

「交渉」の問題は大きなテーマになりますので、まず焦点を絞って、現時点で陥っている可能性のある過ちを防ぐことを目指します。

詳細説明の前に価格交渉してしまう

通常、意思決定には多くの要素が関連しており、価格はそのうちのひとつに過ぎません。ですから、関連する事柄をくまなく洗い出し、取引成立後に生じる状況を想定し確認する必要があります。価格設定は、数量、頻度、周期、品質、色、サイズ、配送オプションなどの変動要因に基づいています。価格そのもの以外に多くの要素が関連しているのですが、多くの場合1つの変数に固執するという誤りを犯しがちです。

クライアント側は、別途生じる手数料や面倒な支払い条件・違約金・スケジュールなどについても不審を抱いているかもしれません。このような問題はバイヤーとの関係構築を困難にしますので注意が必要です。

クライアントとの打ち合わせの前に、先方の懸念事項を予測してチェックリストを作成するとよいでしょう。交渉の目的は、相手を出し抜くことではなく、 お互いにメリットのある関係を構築することです。相手を打ち負かすような駆け引きや巧妙な戦術は、期間限定の短い関係に対応する手法です。

最終ゴールの失念・交渉の余地を残していない

細かな詳細に気を取られすぎると、最終的に達成したい内容が損なわれてしまうことがあります。ミクロとマクロの両方の視点を持ち、細部の問題に振り回される中でも、常に全体像を念頭に置く必要があります。

自信のない態度

低姿勢な態度を取り過ぎると、交渉におけるメンタルパフォーマンスを低下させてしまうことがあります。ためらいがちで自信なさげな緊張した態度をとると、交渉相手が強気に出て、よい結果が得られない場合があります。

目標やノルマ、ボーナス、コミッションがある営業担当者は、どのような内容でもとにかく契約を取ろうと必死なあまり、つい価格面での要求に応じてしまいがちです。こうした弱点はバイヤーにも伝わり、結果として最終価格は確実に下がります。

日々交渉する相手の大半は、自分同様に素人であることを忘れてはなりません。営業担当者として、クライアントに提供できるメリットを自ら信じていれば、自信を持って交渉に臨むことができるはずです。

顧客ニーズの理解不足

交渉の余地がない場合、それが想像もしていないような理由による場合も多いのです。相手の要望を明確に理解できれば、折り合える点を見つけ、互いに満足できる合意に至れる可能性があります。私たちは、交渉に際してある一点にとらわれ、他の多くの選択肢を失念することがあります。相手にとって重要だと思い込んでいることが、実際には大した問題ではない場合も多くあります。相手の懸念点を見極め、それを満足させる方法を見つけることが重要です。

プロセスや結果において顧客の言いなりになる

バイヤーは、自らが交渉の主導権を握っているという考えから、その購買力にものを言わせて、あなたを合意へと追い込もうとするかもしれません。このような合意方法は間違っていますから、合意プロセスにおける意見表明の機会を要求したり、必要に応じて交渉のテーブルから離れることも妥当といえます。

焦りを見せる

あなたが内心では必死だとしても、そのような重要な情報を交渉相手に知らしめる必要はありません。そのような交渉をしていると、得られるもののないまま、こちら側の情報を提供するばかりになってしまいます。

持論を主張する

感情のコントロール方法を身につけて大切にしましょう。激しい言葉で話したり書いたりすることで、優位に立った気分になることもあるかもしれませんが、それによって合意への道筋をつけることはできません。相手の感情を逆撫でしてしまっては、交渉はうまく運びません。

引き際に気づかない

取り決めに納得がいかなければ合意する必要はありませんし、受け入れられないと感じたら、早めに意思表示した方がよいでしょう。「 時は金なり」と言いますから、頭を切り替えて、よりふさわしい交渉相手を探しましょう。 必要に応じて使えるBATNA(交渉相手から提示されたオプション以外で、最も望ましい代替案)を用意しておきましょう。あるバイヤーとのやりとりがひどく苦痛になっているなら、他のバイヤーを探しましょう。人生は短いのですから!クライアントとは多くの時間を共有することになりますから、彼らのビジネスの発展を支援するあなたの行動を理解し感謝してくれるようなクライアントを増やしていくことが、人生をよりよいものにしてくれるでしょう。

価格などの特定の1項目ばかりについて交渉する

価格はコストの一要素に過ぎません。資金調達、品質、タイミング、数量、契約期間など、他の要素も関わってくる可能性があります。交渉の過程に柔軟性を持たせることができる組み合わせはたくさんあります。提供できる価値が製品やサービスのコストを上回るような合意点を、常に探しましょう。 クライアントのニーズを把握し、優れた解決策を提示すれば、価格については問題にならないことも多いのです。

時に私たちは、自ら必要以上に物事を難しくしてしまうことがあります。こうした交渉の基本的なミスを避けていれば、好ましい結果が得られやすいはずです。すなわち、クライアントを満足させ、自分も満足し、信頼とパートナーシップに基づく関係をさらに強めることができるのです。

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