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スピーチ原稿は暗記すべきでしょうか、それとも読み上げるべきでしょうか?

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一人目のスピーチの内容は実に素晴らしく、言葉の遣い方が巧妙に工夫されていて、かなり気の利いたものでした。相当な労力を費やして準備されたスピーチであることは明らかでした。このスピーカーはプロのジャーナリストの経験​を持った人で、適切な言葉を厳選して程よくちりばめ、流れるような描写も称賛に値するものでした。でも、このスピーチは不発に終わってしまったのです。
 
彼の失敗の原因は、紙に書いた原稿をただ読み上げたことです。それならいっそ、私たち全員にメールで​送信して、各自で読ませればよかったのです。でも、もし自分たちで読んだとしても、きっと洒落た小難しいジャーナリスト言葉の意味が分からなくて辞書を引っ張り出して首っ引きで調べながら読む羽目になったかもしれません。
 
二人目のスピーカーはボロボロ​でした。滑らかに話すことができず、何度か言葉に詰まり、時々どもったりしていました。でも、みんなは熱心に聞いていたのです。なぜなら彼は心から語っていたからです。原稿を読み上げるのではなく、私たち聴衆を見てつながりを築こうとしていたのです。プレゼンテーションの資料もありましたが、聴衆を話に引き込むための​単なるナビゲーションとしてだけ使っていました。
 
ここで問題は、自分が作ったスピーチ内容をどうやって再現するかという点です。メッセージを意図したそのまま正確に伝えられるように丸暗記するべきでしょうか?スピーカーは自分の話す内容に強いこだわり​を感じるものです。メッセージを伝えるためには言葉を完璧につなげて話さなければならないと思ってしまうのです。
 
最初のスピーカーはスピーチが長過ぎたため暗記できていませんでした。もちろんみんなそうです。たいてい一生懸命に暗記しても報われること​なんてありません。彼のスピーチの内容は2番目のスピーカーに比べると構成の面ではるかに優れていました。でもコミュニケータ―としては失敗でした。私たちに向かって原稿を読み上げていたからです。凝った原稿を作ることにすべての労力をかけ、話し方については何も努力が払われていませんでした。
 
私も長いスピーチを暗記しようとして失敗しそうになった経験があります。当時私は関西領事団の団長を務めており、中国の李総領事が大阪からアメリカに転勤されるにあたりお別れの会でスピーチをするように頼まれました。大学で中国語を勉強したので、もちろんかなり錆びてはいま​したが短いスピーチならやれると思っていました。でも日本には30年も住んでいますが、中国語は堪能というわけではないので、内容を暗記しなければなりませんでした。そこで、最初の中国語の部分を暗記し、その後はずっと楽に話せる日本語に切り替えるつもりでした。当時の在大阪オーストラリア総領事として、これはアジア​に対するオーストラリアの取り組みの姿勢を強調する、国の威信をかけたなかなか巧妙なスピーチになるだろうと思いましたし、そのときは良いアイデアに見えたのです。
 
でも、ここが暗記の罠でした。これは母国語の場合でも同じです。私の場合は母国語の英語​でするスピーチではなかったので、リスクの高い戦略でした。実際、「重上井岡山」という有名な毛沢東の詩からの引用を出したところまでは上手く行っていました。中国人の参加者はみなすぐに分かり、熱心に拍手し始めました。私はここのところで致命的な誤りを犯したのです。
 
心の中であれこれ迷った結果、拍手が鎮まるまで待ってから次に進みました。これは暗記したスピーチであり、自然な会話調ではなかったため、なんとか言葉を思い出さなければなりませんでした。でも私の頭の中は突然真っ白になってしまったのです。
 
​次に言う言葉が浮かんでこなかったのです。もし大きな演壇でスピーチをすることがあるとして、何千もの期待に満ちた顔の前で頭の中が真っ白になったとしたら、恥ずかしさのあまりマイク・スタンド以外に何か隠れ蓑があったらと願ってならないことでしょう。永遠のように感じた石のように冷たい静寂がおよそ20秒ほど続いた​後、私はなんとか奇跡的に次の部分を思い出し、スピーチを終えてから日本語に切り替えることができました。たいていの場合、スピーチは暗記しない方がきっと賢明でしょう。
 
でも、できることなら聴衆の前で読み上げるのも避けてください。高度に技術的な内​容や、間違えた場合は重大な法的な意味がある、メディアに対して生死の状況を知らせる、不在の上司の代わりを務めるなどという時にはやむを得ません。その場合はできるだけ聴衆とアイ・コンタクトを取るようにしてください。内容をよく理解できるように文章を十分に読み込むと良いでしょう。   文の最初の部分を読んで、最後の部分は聴衆を見ながら話すようにすれば、神聖な文章に完璧に忠実なままでいられます。
 
また、言葉を読むときにジェスチャーを交えることでメッセージを強調できます。マイク・スタンドの上に覆いかかるのではなく、背筋を伸ばしてまっすぐ​立つことで、自信や信頼感、信ぴょう性、信用を示すことができます。重要な点を聴衆が理解できるように間を取ります。キーワードを入れて強調したり、声の強弱を変えることで文章を生き生きとしたものにすることができます。うつむいて、目を文章に釘付けにして聴衆とのつながりを断つことがないようにしなければなりません​。
 
しかし、可能であれば文章を読むのではなく、聴衆を読むようにします。彼らはあなたが話すことに同意しているか、ポイントを理解しているかどうか観察します。話の内容を暗記したり、読み上げたり、スライドを読んだりする必要はないのです。スピーチの​ポイントを決め、それらについて話せばよいのです。
 
大半のスピーチでは、重要なポイントを会話調で話すと非常にうまく行きます。きわめて正式な場で暗記するか、または読み上げなければならない場合は構いません。でもそのような特別な場合以外は、聴衆の​方を見て、聴衆とつながりを持つようにしてください。スピーチの時に文法や発音に誤りがあったり、流暢さに欠けていたりしても聴衆は許すでしょう。
 
聴衆はあなたとつながりを持ち、あなたのメッセージを受け取り、あなたのことを心を込めて話をする真摯な​人であると敬意を払ってくれることでしょう。そしてその結果、あなたに対して好意的な印象を持ってくれるようになるのです。
 
 
筆者について: 
グレッグ・ストーリー博士は、こ​れまでのキャリアの過程で、学問、コンサルティング、投資、通商代表、国際外交、リテールバンキング、人材開発など様々な業界において、卓越した知識と技能を培ってきました。
オーストラリアのブリスベンで育った彼は、国際政治学において博士号を取り、活躍の場を日本に移した後も30年もの間​、リーダーとしての責務を担ってきました。
未来のリーダーに欠かせない4つの分野:リーダーシップ、コミュニケーション、セールス、プレゼンテーションにおいて、在日米国・英国・欧州商工会議所発行の月刊誌「The Journal」、「ACUMEN」、「EURO BIZ JAPAN」に記事を寄稿し、ビデオやポッドキャストのコンテンツを多数発表するなど、生涯学習者として活動をしているソートリーダーでもあります。さらに、彼は人気のある基調講演者であり、エグゼクティブ・コーチであり、講師です。
1971年に糸東流空手に入門、現在空手道六段の彼は、「文武両道」を真​言として、武道哲学や戦略をビジネスの課題に活かしています。
 
 

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