プレゼンテーション

言葉よりも行動で示す

日本という国は面白いところです。ここでは会社での肩書や役職が大きくものを言います。ときどき、エリートに属するこの人は、本当にエリートの名にふさわしい最高のものを生み出すことができるのかと思うことがあります。アメリカ人の友人から、ミズーリ州は「言葉よりも行動で示せ」というのが住民のモットーであることで有名だと聞きました。自分はこういう人物であると伝えても、それを実際の行動で証明できなければ、信用は一気に失われてしまうということです。
 
実に残念なこの出来事もその例に当てはまるようでした。あるスピーカーが、素晴らしい論点をいくつか伝えようとしていたのですが、基本的な過ちを犯したせいで、会社のメッセージを台無しにしてしまったのです。私は、このようなことはもうあってはならないと強く思います。今やこんなにたくさんの情報があって、お手本も学習ビデオも、上達するためのコツやトレーニングもいっぱいあるのに、どうしてあんなにまずいプレゼンテーションをさせる会社が存在するのか不思議でなりません。
 
感心したのは、このスピーカーは彼にとって外国語である英語でスピーチをしていました。実際、彼の英語力は素晴らしいものでした。速さも発音も良く、声もはっきりとしていました。経歴も立派で国内のエリートの部類に属し、教養が高く、かなり上の役職の人でした。ポジティブなメッセージと売り込みに大成功、完全な圧勝・・・と思いきや、見事不発に終わっていました。
 
すべて終わった後で、私は彼に話しかけました。広大な地平線と、青空が広がり太陽が輝く国から来た永遠の楽天的オーストラリア人気質を持つ私は、会社のさらなる発展のために、彼はどうしたらよいかについて、ちょっとした友好的・好意的なフィードバックを与えたら役に立つのではと思ったのです。でも彼はそうとは取らず、私に例を求めました。明らかに彼はスピーチが大成功で、聞き手も満足していると信じているようです。ところで、そのときの聞き手は、長年の親日家や日本をサポートする人たちの集まりだったので、実際、彼らにとっては釈迦に説法のようなものだったのですが、それでも彼のメッセージは闇の中に消えてしまっていました。
 
私は彼に最初のスライドをもう一度見せてほしいと頼みました。分かりづらいたくさんの色で塗りたくられ、データがごちゃごちゃと詰め込まれ、簡単には理解できない内容で、魅力に欠けていました。はっきり言って、けばけばしいネオン街のようです。残りもすべてこのような感じでした。明らかにデータが重要なメッセージを台無しにしてしまっていたのです。1枚のスライドに多くの情報を詰め込みすぎではありませんか、と彼に言ったら、彼はこれでも整理した方だと言うではありませんか。会社の標準のスライドから情報をそぎ落したらしいのです。「えっ、そぎ落とした・・・?」。私は信じられない気持ちでした。それでもこんなにひどいなんて…。
 
もう1つの問題は、プレゼンテーションの方法でした。プレゼンテーション中、彼はモニターの真ん前に立ち、私たちに背中を見せて、画面に書いてあることを読み上げていたのです。幸運なことに、彼はハンサムで洗練され魅力的、国際人らしい物腰で、言いたいことを言葉で明瞭に表現できる人でした。会場全体を彼の考えに同調させる力を自然に身に着けていました。でも残念ながら、彼は完全に失敗したのです。
 
私たちのかつての英雄はどこに行ってしまったのでしょう。スライドをプレゼンテーションの中央に据えてしまい、中心とすべきメッセージを脇に置いてしまっていたのです。論点を注意深く絞ったら、最も強力で重要なもののみを厳選しなければなりません。1枚のスライドには1つの論点のみを示し、色は対比を示すために2色までに限り、禅のようにシンプルさを心がけます。聞き手がスライドの重要なポイントを2秒間で分からなかったら、もっとそぎ落とす必要があります。
 
グラフはたいへん効果的な視覚であり、決定的な証拠として使いたい誘惑に駆られます。でも、たいてい、論点を支えるための長期間の比較や多数のデータ点を示すなど、できるだけたくさんの情報をグラフのスライドに詰めようとしがちです。そうではなく、画面の壁紙のようなものと考えてください。視覚的な背景となるのです。そして次のスライドに移り、論点の転換を示したり、ポップアップ表示で重要な数字を特大のフォントで強調したりします。こうすることで、雑多なデータはすべて排除し、聞き手に理解してほしい重要な証拠のみを引き抜くことができます。1つの画面にすべてを詰め込もうとするのは、プレゼンテーションでは自殺行為に等しいです。
 
また、プレゼンテーションの設備などの面でも、いくつかの非常に基本的な点に気を配る必要があります。主催者がどのように会場を準備していても、できるだけ物の位置を動かしたりして、可能な限りプロフェッショナルに、かつ最高のプレゼンテーションができるスペースを確保するようにします。聞き手から見て画面の左側に立つようにしましょう。彼らは左から右に向かって読むので、スピーカーの顔を最初に見てから、画面の文字を読んでもらえます。また、聞き手に向き合うようにします。もし画面が見やすくなるようにと、誰かが照明を暗くしてしまったら、一旦手を止めて、照明を元どおり明るくするように頼んでください。暗いと聞き手の表情が見えないので、 照明は必要です。表情を見ることで、こちらのメッセージに同調しているか、それとも抵抗しているか、推し量ることができます。彼らもこちらの姿を見ることができるため、ジェスチャーや表情、ボディ・ランゲージを活用して話す内容をより印象強いものにしましょう。
 
スライドやプレゼンテーションの方法が違っていたら、このスピーカーのメッセージも、より明確で魅力的なものとなっていたでしょう。私が彼に提案したことは、どれも複雑や難しいことではありません。それなのに、未だに賢い人たちから、プロフェッショナルさに欠けたプレゼンテーション攻撃に合うのはなぜでしょう。彼は抵抗したままでした。エリートでありながら、私の言うことを理解してはくれませんでした。私は、彼が会社のメッセージを普及させる旅にドン・キホーテのごとく夕陽へ向かって去っていくのをただ見送るのみでした。まぁ、せいぜい頑張ってください・・・。
 
人は私たちの姿を見て私たちのことを判断します。経歴に気を留めてはくれるでしょうが、判断材料は私たちがプレゼンテーションで見せる内容と見せ方なのです。ミズーリ州の「言葉よりも行動で示せ」の道義は、人前に立ち、偉そうに話しをする準備をする際にぜひ肝に銘じておきたいものです。

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