#117:モヤモヤはセールスのチャンスがノックしている音
ビジネス達人の教え
なぜ「小さなモヤモヤ」が大きなセールスチャンスなのか
一見すると「うちの組織はうまく回っている」と見える現場でも、よく耳を澄ませると小さな違和感や不満が必ず存在します。チームの動きが遅い、同じ作業が何度も繰り返される、重要な業務に集中できない――こうした感覚的な不全感が、日本の職場では「モヤモヤ」として蓄積されていきます。
セールスの立場から見ると、このモヤモヤはただの愚痴ではなく、大きな変革ニーズの入口です。デール・カーネギーの原則「相手の立場から正しく物事を見る」「相手の関心のあることについて話をする」に立ち返ると、真に価値のある営業対話は、自社商品の説明からではなく、お客様のモヤモヤから始まります。
ミニまとめ:モヤモヤはお客様組織のエネルギーを奪う要因であると同時に、変革ニーズの強いサイン。そこに共感し、丁寧に向き合える営業ほど、深い対話の扉を開くことができます。
お客様の「モヤモヤ」はどのように現れるのか
モヤモヤは、「御社のサービスが必要です」といった分かりやすい言葉では表現されません。多くの場合、次のような何気ないひと言として表面化します。
・「チーム全体の動きが、もう少しスムーズになればいいんですけどね…」
・「マネージャーがコーチングや1on1をしたいと思っていても、日々の業務に追われてしまって…」
・「同じ作業が何度も発生していて、情報共有がうまくできていない気がするんです」
日本企業では、経営層とミドルマネジメントがそれぞれ異なるモヤモヤを抱えているケースも多く見られます。経営層は中長期的な競争力や人材育成を懸念し、マネージャー層は日々のオペレーションに埋もれて身動きが取れなくなる。東京の外資系企業では、本社はトランスフォーメーションを求める一方、日本拠点は「どう変えればいいのか分からない」という不安を抱えている、という構図もよくあります。
コンサルティブセールスの役割は、こうした何気ない言葉を単なる雑談として流さず、「本質的な課題の入口」として受け止めることです。
ミニまとめ:モヤモヤは、スピード、コミュニケーション、フォーカスに関するささいなコメントとして現れます。優れた営業はこれを聞き逃さず、課題の深堀りにつなげます。
モヤモヤを「明確なビジネス課題」に変換する質問力
モヤモヤに気づいたら、次のステップはそれを一緒に整理し、言語化することです。デール・カーネギーの原則「よく聞き、相手にたくさん話させる」を実践しながら、例えば次のような質問を投げかけてみます。
・「チームの動きがスムーズでないと感じるのは、具体的にどのような場面ですか?」
・「マネージャーの本来の役割は何だとお考えですか? 今はそれにどれくらい時間を割けていますか?」
・「もしこの状態があと1〜3年続くとしたら、どのようなリスクや不安がありますか?」
ここで大切なのは、現状を批判するのではなく、お客様の視点を尊重しながら一緒に整理していく姿勢です。感覚的なモヤモヤはやがて、「生産性の低下」「意思決定の遅さ」「リーダー育成の停滞」「メンバーの主体性不足」「チャンスロス」といった具体的なビジネス言語に変換されていきます。
ミニまとめ:共感的な質問と傾聴によって、感覚的なモヤモヤを、両者が共有できる「明確なビジネス課題」にまで落とし込むことができます。
「痛み」から「ワクワク」へ――未来の姿を共創する
課題が見えてきたら、次は「今の痛み」に留まるのではなく、「望ましい未来」に話を移していきます。「何が問題か?」だけでなく、「どうなっていたら理想的か?」を描くことで、人は痛みから逃げるのではなく、未来に向かって前進できるようになります。これは、デール・カーネギーが強調した「熱意を喚起する」アプローチそのものです。
例えば、リーダーシップ研修であれば、こんな未来を一緒に描いていきます。
・マネージャーが1on1を通じて、コーチング・権限移譲・評価フィードバックを効果的に行っている。
・メンバーが自発的に動き、問題ではなく解決策を持って会話に参加している。
・マネージャー自身がプレイングマネージャーから脱却し、戦略的な業務や部門横断の連携に時間を投資できている。
経営層とマネージャーがこの未来像をありありとイメージできるようになると、モヤモヤは「ワクワク」に変わります。この瞬間、「研修をやるかどうか」の議論ではなく、「いつ・どのように導入するか」の前向きな検討に自然とシフトしていきます。
ミニまとめ:課題を明らかにした後は、「どうなれば理想か」という未来像を一緒に描くことが重要です。痛みから逃げるのではなく、ワクワクする未来に向かって動き出すエネルギーを引き出せます。
事例:『現状で回っている』からリーダーシップ変革へ
ある企業では、マネージャー陣からは「現状でも回っているので、あえて負荷をかけて変えなくてもよいのでは」という声が聞かれました。しかし、経営層と対話を重ねると、「将来を担うリーダーをどう育てるのか」「変化に対応できる組織カルチャーをどう作るのか」といった、より深いモヤモヤが浮かび上がってきました。
そこで、マネージャー向けにリーダーシップトレーニングを導入しました。内容は、デール・カーネギーの原則に基づき、信頼関係の構築、心からの評価、コーチングによる成長支援、明確な権限移譲とフィードバックといった行動にフォーカスしたものです。その結果:
・マネージャーはメンバーを信頼して任せられるようになり、細かなマイクロマネジメントから解放された。
・メンバーは自発的に動き、課題ではなく提案を持って議論に参加するようになった。
・マネージャー自身も、これまで手を付けられなかった戦略的テーマや他部署との連携に時間を充てられるようになった。
初めは「なんとなく感じていたモヤモヤ」が、行動変容とビジネス成果を伴うリーダーシップ変革へとつながったのです。
ミニまとめ:モヤモヤを入り口に、リーダーシップ開発という具体的な打ち手につなげることで、組織全体の行動と成果を大きく変えることができます。
モヤモヤに耳を澄ます営業習慣をつくる
モヤモヤに気づく力は、一度の商談だけで完結するスキルではありません。日々の営業活動の中で、次のような問いを自分に投げかける習慣を持つことが大切です。
・今日の打ち合わせで感じた「言葉になっていない不安」は何だったか?
・自分は十分にお客様の話を聞き、モヤモヤを安心して話していただける空気をつくれていたか?
・自社のソリューションを、お客様のありたい未来とどう結びつけて説明できたか?
この習慣を続けることで、お客様から見たあなたのポジションは「商品を売る人」から「ビジネスの成長を一緒に考えるパートナー」へと変わっていきます。デール・カーネギー・トレーニングが世界中で評価されてきたのも、スキル提供にとどまらず、組織文化や行動の変化をサポートしてきたからこそだと言えるでしょう。
ミニまとめ:モヤモヤに耳を澄まし続ける営業は、単なるベンダーではなく、長期的な成長を支えるビジネスパートナーとして信頼される存在になります。
まとめ:モヤモヤをセールスチャンスに変える3つのポイント
・モヤモヤ(漠然とした不満・違和感)は、お客様が変化を必要としている強いサインである。
・共感的な質問と傾聴によって、モヤモヤを「明確なビジネス課題」と「望ましい未来像」に変換できる。
・デール・カーネギーの原則に基づくソリューションと結びつけることで、モヤモヤを双方の成長につながる具体的
デール・カーネギー・トレーニングは、1912年に米国で創設され、100年以上にわたり世界各国でリーダーシップ、セールス、プレゼンテーション、コミュニケーション、エグゼクティブ・コーチング、そしてDEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)の分野で個人および企業向けの研修を提供してきました。
東京オフィスは1963年に設立され、日本企業および外資系企業、さらには個人の方々の成長もサポートし続けています。単なるスキルトレーニングではなく、組織文化の変革やリーダーとしての成長を後押しすることで、ビジネスの成果につなげます。
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