Episode 130: リーダーシップの指針 パート1

ビジネスプロTV(セールス編)


多くの日本企業や外資系企業の日本拠点では、成果を上げたマネジャーが昇進し、突然「リーダー」になります。しかし、そのタイミングで「人をどう導くのか」という地図はほとんど渡されません。本や研修、ポッドキャスト、上司やメンターからのアドバイスはあるものの、「結局、月曜日の朝から何を変えればいいのか?」と悩む方は少なくありません。

本記事では、100年以上にわたり世界中でリーダーシップとセールスの研修を提供してきたデール・カーネギーの原則に基づき、日々の部下との対話や顧客対応、経営層とのやり取りの中で使える「リーダーシップの指針」を7つに整理しました。世界的に知られる16の原則のうち前半パートとして、日本のビジネスプロフェッショナル向けにお届けします。

Q1. なぜ優れたリーダーは「弱み」ではなく「強み」から始めるのか?

日本の組織では「課題」「反省点」「できていないこと」に焦点を当てる文化が根強くあります。評価面談や1on1が、気がつけば“ダメ出しリスト”になってしまうことも少なくありません。しかしポジティブ心理学の研究や、デール・カーネギーが長年実践してきた経験からも、持続的な成長は「弱点矯正」ではなく「強みの自覚」から始まることが分かっています。

メンバーに対して「自分は何が得意なのか」「この四半期、どこで一番価値を出したのか」を一緒に言語化していくと、自信が生まれます。その自信こそが、新しいチャレンジや行動変容に踏み出すエネルギーになります。失敗が許されにくい文化だからこそ、「できていること」を土台にすることが重要です。

例えば、東京の法人営業チームであれば、「どの商談がうまくいったのか」「事前準備で何が効いたのか」「その強みを他の重要顧客の決裁プロセスにどう展開できるか」を一緒に振り返ることができます。

これはデール・カーネギーの「心から、誠実にほめる」という原則とも一致します。問題を無視するのではなく、まず強みを認めることで、建設的な対話の土台をつくるのです。

ミニまとめ: フィードバックやコーチングの前に、具体的な成功体験や強みを一緒に確認しましょう。自信が生まれ、課題や新たな目標とも向き合いやすくなります。

Q2. なぜ「信頼」があらゆるコミュニケーションの基盤になるのか?

リーダーにとって信頼は「あると良いもの」ではなく、すべてのコミュニケーションのインフラです。信頼がなければ、どれだけロジカルな提案や美しい資料を用意しても、人は動きません。

信頼は、「公平であること」と「言ったことを、言ったとおりに、言ったタイミングで実行すること」の積み重ねで築かれます。日本企業では、同じような顧客に対して説明なく価格差があったり、人事評価の基準が突然変わったりといった“小さな不公平感”に、社員は非常に敏感です。こうした不整合が少しずつ、目に見えない「信頼残高」を減らしていきます。

デール・カーネギーが重視してきたのは、言葉よりも行動の一貫性です。「金曜日までに共有します」と約束したことを何度も守れないリーダーは、どれだけ人前で上手く話しても、やがて信頼を失います。一方で、コスト削減や採用凍結といった厳しいメッセージであっても、誠実かつ一貫した説明があれば、人は納得しやすくなります。

ミニまとめ: 信頼は、公平さと約束を守る姿勢から生まれます。小さなコミットメントもすべて、「信頼残高」を増減させる要素になります。

Q3. 現代の組織で、人を本当に動かすモチベーションとは?

いまだに多くのマネジャーが、給与やインセンティブ、上からのプレッシャーといった「外発的動機づけ」に頼りがちです。しかし仕事が複雑化し、リモートやハイブリッドが当たり前になる中で、「やれ」と言われて本気で動く人はほとんどいません。真のモチベーションは内面から生まれます。

例えば、外資系企業で働く若手は、「急成長」「グローバル exposure(経験)」といった価値観を重視するかもしれません。一方、大手日本企業のミドル層は、「安定」や「社会への貢献」を重んじる場合もあります。KPIや締め切りの話だけをしていると、その人にとっての本当の意味づけややりがいを見落としてしまいます。

デール・カーネギーのリーダーは、年に一度の評価面談だけでなく、日常的な1on1や雑談の中で「3年後、どんなプロフェッショナルになっていたいか」「どのプロジェクトで一番エネルギーを感じるか」といった質問を重ね、価値観やゴールをアップデートしていきます。ライフステージや家族の状況が変われば、目標も変化していくことを前提に対話を続けるのです。

ミニまとめ: モチベーションは外から与えるものではなく、内側から生まれるものです。一人ひとりの価値観やゴールを理解し、仕事とのつながりを示すことがリーダーの役割です。

Q4. なぜ「テクニック」よりも、本物の関心が人を動かすのか?

セールスやリーダーシップ研修では、「相手を動かすテクニック」を求める声がよく聞かれます。しかし、デール・カーネギーの原則の中でも特に力を持つのは、「人に心から関心を寄せる」というシンプルな姿勢です。

周囲の人は、「営業スマイル」なのか、本当に興味を持ってくれているのかを敏感に感じ取ります。本物の好奇心があれば、質問の質が変わり、フォローアップの仕方も変わります。相手の組織構造や本社との力学、抱えているプレッシャー、家族の状況など、細かな情報を自然と覚えていきます。

こうした真の関心は、心理的安全性を高め、率直な本音トークを引き出します。リーダーにとっては、デジタル変革への不安や、決裁プロセスの遅さへの不満、失敗への恐れといった「本当の困りごと」を聞き出すことができる貴重な入口になります。

ミニまとめ: 上辺だけの好意ではなく、本物の好奇心を持って相手を理解しようとすると、信頼が生まれ、深い情報や本音を引き出せます。

Q5. エンパシー(共感)は、難しい対話をどう変えるのか?

共感とは、すべてに賛成することではありません。自分の意見を押し出す前に、「相手の現実を理解しようとする姿勢」のことです。日本のビジネス文化では、表立った対立を避ける傾向があるからこそ、共感が欠けると関係性が静かに壊れていきます。

たとえば、苦しい事業の立て直しに取り組んでいるマネジャーに対して、「まあ、向いてないんじゃない?」といった皮肉まじりの一言を投げるとどうなるでしょうか。言った側は冗談のつもりでも、言われた側には「努力も背景も理解されていない」と受け取られ、大きなダメージになります。

デール・カーネギーは「相手の立場に身を置いて物事を見よう」と説いています。アドバイスや批判をする前に、「このターンアラウンドで一番苦労していることは?」「本社からどんな支援があれば一番効果的か?」といった質問を投げかけるリーダーは、意思決定の質を高めるだけでなく、相手との信頼関係も強めていきます。

ミニまとめ: 共感とは、意見を言う前に相手の文脈と感情を理解しようとすることです。難しい対話が、学びと協働の場に変わります。

Q6. なぜ「聞き上手」なリーダーほど説得力があるのか?

「説得力のあるリーダー=話が上手い人」と考えられがちですが、実際には「よく聞いてくれるリーダー」の方が信頼されます。自分の話を真剣に聞いてもらえたと感じると、人は心を開き、フィードバックや新しい提案にも耳を傾けやすくなります。

1on1では、「相手が7割以上話す」ことを目標にしてみましょう。顧客やプロジェクト、キャリアの希望についてオープンクエスチョンを投げかけ、相手が話している間は口をはさまず、反論を考えるのも一度止めます。これはまさにデール・カーネギーの「聞き上手になれ。相手にどんどん話させよ」という原則の実践です。

特に日本の職場では、大人数の場で手を挙げて意見を言うことに抵抗がある人も少なくありません。少人数の場で意識的に「聞く」ことは、隠れた才能や初期段階のリスク、イノベーティブなアイデアを引き出す強力な手段になります。

ミニまとめ: 聞くことそのものが、強力な説得の手段になります。人は「聞いてもらえた」と感じると、相手の提案や方向性を受け入れやすくなります。

Q7. なぜ今、リーダーには「協働力」が必須なのか?

現代のビジネス環境では、Creativity(創造力)、Critical Thinking(批判的思考)、Collaboration(協働)が強く求められています。DX、ESG、グローバル展開といった複雑なテーマは、一人のカリスマリーダーだけでは到底解決できません。

結果だけを重視し、トップダウンで押し切る「孤高のリーダー像」は終わりつつあります。これからのリーダーは、部門や国境を超えた多様な専門家を結びつけ、協働を生み出すファシリテーターです。階層や役職に関わらず、意見が出しやすく、安心して異論も言える場を設計することが求められます。

デール・カーネギー流のリーダーシップは、相手への敬意、励まし、そして「一緒に創る」というスタンスを重視します。自分の意見が大切に扱われていると感じるメンバーは、指示待ちではなく、自ら責任を取り、主体的に動くようになります。

ミニまとめ: 協働はもはやオプションではなく、リーダーの必須スキルです。多様な人材をつなぎ、心理的安全性をつくり、集団の知恵を成果につなげることが求められます。

7つの指針を、今日から現場で生かすために

強みに目を向けること、信頼を築くこと、内発的なモチベーションを引き出すこと、本物の関心と共感を示すこと、聞き上手になること、協働をデザインすること。これら7つの指針は、抽象的な理想ではなく、次の会議や1on1、顧客訪問からすぐに使える具体的な行動です。

100年以上にわたるデール・カーネギーのグローバルな経験と、日本での数十年の実績を通じて磨かれてきたこれらの原則は、「今の自分」と「なりたいプロフェッショナル像」とのギャップを埋めるための、信頼できるコンパスになります。

Key Takeaways

• フィードバックの前に強みを確認し、自信と対話の土台をつくる。

• 公平さと約束を守る姿勢で、日々の行動から信頼残高を積み上げる。

• 本物の関心、共感、傾聴、協働によって、チームの可能性を最大限に引き出す。

デール・カーネギー・トレーニングは、1912年に米国で創設され、100年以上にわたり世界各国でリーダーシップ、セールス、プレゼンテーション、コミュニケーション、エグゼクティブ・コーチング、そしてDEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)の分野で個人および企業向けの研修を提供してきました。

東京オフィスは1963年に設立され、日本企業および外資系企業、さらには個人の方々の成長もサポートし続けています。単なるスキルトレーニングではなく、組織文化の変革やリーダーとしての成長を後押しすることで、ビジネスの成果につなげます。

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