Episode 131: 取引が本物かどうかを見分けるには?

ビジネスプロTV(セールス編)


BtoB営業において、最もストレスが大きいのは、「これはいける」と信じて時間と労力をかけた案件が、最終的に一件も決まらないことです。特に日本企業や外資系日本法人の複雑な決裁プロセスの中では、「この取引は本当に動いているのか、それとも幻想なのか」を見極めるのが非常に難しくなります。

営業の現場では、「出会う見込み客の3分の1は決して買わない、3分の1は将来的には買う可能性があり、残りの3分の1は条件が整えばすぐにでも買ってくれる」という感覚則があります。問題は、最初の面談の段階では、そのどのタイプなのかがほとんど分からないことです。だからこそ、日本の決裁プロセスを理解し、正しい質問で案件を見極める力が、プロフェッショナルには不可欠になります。

見込み客にはどんなタイプがあるのか?

多くの法人営業の現場で出会う見込み客は、大きく3つのグループに分けられます。「絶対に買わない人」「今は買わないが、将来的に可能性がある人」「条件が揃えばすぐにでも買う人」です。厄介なのは、この3つのタイプが見た目ではほとんど区別できないことです。誰もがフレンドリーで、前向きで、「興味があります」と言ってくれます。

この不確実さが、営業担当者を「過投資」に追い込みます。「ノー」と言われても引き下がれず、「いつかイエスになるかもしれない」と信じて話し続けてしまう。15分の予定だったミーティングが、気づけば90分になっている。終わった後も、「決まるのか、決まらないのか」モヤモヤを抱えたまま帰社することになります。

実際の営業プロセスは、未知のジャングルに入っていくようなものです。表面だけの好意、予算も権限もない相手、社内政治で止まってしまう案件など、あちこちに罠やぬかるみが隠れています。そこで重要になるのが、「この人はどのタイプなのか」「この案件はどの程度リアルなのか」を早い段階で見極めるための判断軸です。

デール・カーネギーの原則で言えば、「相手の立場に身を置いて物事を考える」ことから始める必要があります。こちらの提案を押し込むのではなく、相手企業の制約条件―予算サイクル、本社の影響力、他部門からの抵抗―を丁寧に聞き出し、それを基準に案件を評価していく。表面的な「好印象」ではなく、実際の制約を理解することで、取引が本物かどうかをより正確に判断できるようになります。

ミニまとめ: 出会う見込み客は、「絶対買わない」「いつか買うかもしれない」「すぐにでも買う」の3タイプに分かれます。違いを見抜くには、表面的な好意ではなく、企業の制約や状況を丁寧に聞き出すことが重要です。

なぜ「決裁者」を見誤ると、永遠に決まらないのか?

日本企業や外資系日本法人で特に注意が必要なのは、「見えている権限」と「本当の権限」が一致していないケースです。肩書としては社長やカントリーマネージャーであっても、実際の決裁権は本社のCFOや人事、あるいは親会社から派遣された役員が握っていることが少なくありません。

例えば、大手日本企業に買収された会社の外国人社長と昼食を取りながら、営業力強化のための研修導入について盛り上がったとします。社長は非常に前向きで、「ぜひやりたい」「うちの営業を変えたい」と熱く語ってくれる。営業側から見ると、これは「かなり確度の高い案件」に見えます。

しかし、その裏側で、親会社から派遣された日本人CFOが、予算と最終決裁をほぼ一手に握っているとしたらどうでしょうか。研修方針、投資の優先順位、ベンダー選定などは、実質的にこのCFOの判断で決まっている。ここに気づかないまま、「社長はやる気だ」と信じてフォローを続けても、案件はいつまでも前に進みません。

このケースが示しているのは、「買収・合弁・持分法適用」といった本社主導の構造がある場合には、必ず「本社から誰が来ているのか」「その人はどこまで決裁できるのか」を確認する必要があるということです。表面的な熱意や肩書きに頼るのではなく、稟議フロー、予算権限、リスクを負う人は誰か――という視点で、真の決裁者を見極めていきます。

デール・カーネギーの観点からは、相手のメンツを傷つけずにこれを行うことがポイントです。「本当にあなたが決められるのですか?」と問い詰めるのではなく、「これくらいの規模の投資の場合、過去にはどのような方々が関わられましたか?」「本社と日本側の間では、どのような承認の流れになりますか?」といった質問で、自然にプロセスを引き出します。

ミニまとめ: 見えている肩書きと、実際の決裁権が一致しているとは限りません。特に本社主導の体制では、誰が最終的なリスクを負うのか、どこで稟議・決裁されるのかを、相手のメンツを守りながら丁寧に確認する必要があります。

本当の決裁プロセスを引き出すには、どんな質問をすべきか?

取引が本物かどうかを見極めるには、「誰が決めるのか」「どのように決まるのか」「いつ決まりうるのか」という3点を押さえる必要があります。そのためには、ミーティングの比較的早い段階で、落ち着いて具体的な質問を投げかけることが効果的です。例えば次のような質問です。

  • 「この規模の取り組みの場合、通常はどのような方々が関わられますか?」
  • 「御社では、稟議・決裁プロセスはどのような流れになりますか?」
  • 「これまでに類似の研修・コンサルティング投資をされた際には、どのようなプロセスでしたか?」
  • 「本社側では、財務や人事など、どなたかレビューに入られることはありますか?」
  • 「予算や社内の優先順位を踏まえると、決裁のタイミングとして理想的なのはいつ頃でしょうか?」

これらの質問は、単に情報を集めるだけではありません。「この人は日本企業の決裁事情を理解している」「社内で通しやすくすることまで考えてくれている」と、相手に安心感とプロフェッショナリズムを伝える効果もあります。

デール・カーネギーの原則である「相手の関心事について話す」を活かし、「社内で通しやすくするために、事前に流れを教えていただけますか?」といったフレーズを添えることで、相手も本音を話しやすくなります。決裁の地図がクリアになればなるほど、その案件が「現実的」なのか「夢物語」なのかを、落ち着いて判断できるようになります。

ミニまとめ: 「誰が関わるのか」「どうやって決まるのか」「いつ決まりうるのか」を質問で具体化し、決裁の地図を描くことで、取引の実現可能性を冷静に見極めることができます。

タイミングが合わない相手とは、どう関係を維持するべきか?

一方で、「今は動けないが、将来チャンスがありそう」というタイプの見込み客も存在します。イベントで会うと毎回ポジティブな反応を示してくれるものの、メールや電話の返信は途切れがち。業界全体が混乱していたり、社内で優先度の高い課題に追われていたりして、「やりたいけれど、今はそこまで手が回らない」という状態です。

このような相手に対して、短期決着を狙って追い込みすぎると、かえって距離を置かれてしまいます。一方で、完全にフォローをやめてしまうと、ある日突然環境が変わり、「今すぐやりたい」となったタイミングで、最後にコンタクトしていたのが他社だった――ということにもなりかねません。

ここで大切なのは、「期待値」と「エネルギー」のコントロールです。こうした案件は、「長期・低プレッシャー案件」として扱い、自分の心の中で「今すぐ決まらなくて当然」と位置づけます。その上で、業界レポートや事例紹介など、相手にとって価値のある情報を、無理のない頻度で届けていきます。

デール・カーネギーの原則である「人に重要感を持たせる」「誠実に賞賛する」を意識しながら、相手の状況に共感し、タイミングが来たときに思い出してもらえる存在であり続けることがポイントです。

ミニまとめ: タイミングが合わない見込み客とは、「長期・低プレッシャー案件」として期待値を調整しつつ、価値ある情報提供を続けることで、こちらのエネルギーを守りながら関係を維持していきます。

次の1週間でできる、案件の見極め強化アクションとは?

ここまでのポイントを、明日から実践できるアクションに落とし込んでみましょう。日本企業・外資系企業を問わず、次のようなルーティンを取り入れることで、「取引が本物かどうか」を見極める精度が高まります。

  • 事前に所有構造とガバナンスを調べる。 子会社・合弁・買収先かどうかを確認し、本社の影響度をイメージしておく。
  • ミーティングの早い段階で決裁者を確認する。 過去の類似案件では誰が関わったのか、稟議・決裁プロセスはどうだったのかを具体的に聞く。
  • 「興味」よりも「制約」に耳を傾ける。 予算サイクル、他部門の抵抗、社内優先順位など、障害となりうる要素を丁寧にメモする。
  • 面談後に見込み客を3タイプに分類する。 「ほぼ買わない」「タイミング次第」「すぐに動きうる」のどれかを判断し、それに応じてフォローの頻度と期待値を調整する。
  • デール・カーネギーの原則と結びつける。 信頼構築と社内で通しやすくするサポートに焦点を当て、「目先の一件」だけでなく長期的な関係性を重視する。

ミニまとめ: 事前調査・質問・振り返りの3ステップを習慣化し、見込み客を3タイプに分類することで、「追うべき案件」と「距離を置くべき案件」を冷静に選び取れるようになります。

まとめと重要ポイント

現代の法人営業――特に日本企業や本社主導の外資系企業を相手にする場合――において、真の競争力は「商品・サービスそのもの」だけではありません。「どの案件が本物で、どの案件が幻想なのか」を早い段階で見極め、自分の時間とエネルギーを守りながら、長期的な信頼関係を築いていく力そのものが、大きな差になります。

デール・カーネギーの原則に基づき、相手の立場に立って話を聞き、社内で通しやすくすることを支援しながら、営業というジャングルを一歩ずつ確実に進んでいきましょう。

重要ポイント:

  • 見込み客は「絶対に買わない」「将来的には買うかもしれない」「すぐにでも買う」の3タイプに分かれる。早い段階でどのタイプかを見極めることが重要。
  • 買収・合弁・本社主導の体制では、目の前の「ボス」が必ずしも真の決裁者ではない。稟議・決裁プロセスと本当の権限者を丁寧に確認する必要がある。
  • 粘り強さと距離感のバランスが鍵。長期案件とは期待値を調整しながら価値提供を続け、自分のエネルギーを守りつつ、タイミングが来たときに選ばれる存在を目指す。

デール・カーネギー・トレーニングは、1912年に米国で創設され、100年以上にわたり世界各国でリーダーシップ、セールス、プレゼンテーション、コミュニケーション、エグゼクティブ・コーチング、そしてDEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)の分野で個人および企業向けの研修を提供してきました。

東京オフィスは1963年に設立され、日本企業および外資系企業、さらには個人の方々の成長もサポートし続けています。単なるスキルトレーニングではなく、組織文化の変革やリーダーとしての成長を後押しすることで、ビジネスの成果につなげます。

私たちは毎週、日本語で役立つビジネス・コンテンツを発信しています。

ビジネスプロTV:隔週木曜日配信(動画+音声)―リーダーシップ、営業、プレゼンテーションなどを深掘り。

ビジネス達人の教え:隔週火曜日配信(音声のみ)―リーダーシップ、セールス、プレゼン力を鍛える実践知をお届け。

👉 公式サイト:www.dale-carnegie.co.jp

関連ページ

デール・カーネギー・東京・ジャパンでは、最新情報やビジネス・職場・プライベートの課題を解決する
重要なテクニックなどをご紹介するメールマガジンを配信しています。