デール・カーネギーのセールス・コースの始まり

1929年のウォール街の大暴落では、世界中の企業が倒産し、人々は仕事を失いました。その後、徐々に景気は回復し、緊迫状態にあったビジネス市場も通常の環境に戻りました。どんな企業でも当然、何も売ることができなければ、ビジネスとして成立しません。また、売るための製品やサービスがあっても、それを売るために必要不可欠である「営業」と言うシステムがうまく機能していない場合、組織はどうなるのでしょうか?「営業」と言う仕事は、重要でありながら、決してすべてのセールスパーソンがプロフェッショナルな営業をしているとは限りません。この問題は、ビジネスの長い歴史の中で常に存在し、現在でも続いています。

1930年代前半の世界恐慌では、銀行が破綻して貯蓄がなくなり、株式市場の崩壊で持ち株が一掃され、多くの人が金融機関に対する信頼を失いました。このような不安定な環境の中で、多くのセールスパーソンは自分を差別化し、信頼できる誠実な人間であると買い手に思わせることに苦労していました。

厳しい状況下で営業を続ける彼らの中には、自社の製品やサービスの利点を大げさに売り込み、顧客へ嘘をついたりする人もいました。彼らは、自分たちが提供するソリューションの欠点をひた隠しにし、その場限りの販売にだけ集中していたため、再注文を受けられずにいました。このような風潮により、誠実なセールスパーソンでさえも詐欺まがいの営業と一緒にされてしまいました。

当時のセールスパーソンは、大企業につとめしっかりした営業の研修を受講できる者と、何も知らぬまま現場に放り込まれる者と、明確な層に分かれていました。

この層の後者が、悪名高い「ピッチ商法」を生んだのです。彼らは、見込客のニーズを聞き出すための質問、ソリューションやベネフィットの説明を全くせずに、一方的に製品やサービスの詳細を述べ、それらがどれだけ素晴らしいかを演説し、購買につなげようとしました。更には、他のクライアントでの成功事例などの証拠も提示せずにいました。そのため、顧客から信頼を得ることができなかったのです。

このようなセールスパーソンは顧客が少しでも躊躇したり、反発したりすると、すぐに激しい口論を始め、自分達が正しいのだと説得しようとしました。彼らは、なぜそのソリューションに問題があるのかを相手に聞こうとは一ミリも考えませんでした。反対意見を言われればその分より一方的な主張を強め、相手が「間違っている」とさえ指摘していました。また、顧客に「検討します」と言われれば、「では、どのくらい考える必要があるのですか」と迫り、強引に売り込みをしようともしました。

当然ながら、このような教育不足のセールスパーソンは成果をあげることができませんでした。給料の大半、あるいは100%が歩合制である場合、売れないということは、家族を養えないという死活問題でした。その点では、営業は残酷です。セールスマネジャーが掲げた高い目標を達成できないセールスパーソンは躊躇なくクビにされます。多くの会社は、セールスパーソンの教育にお金をかける必要性を感じていませんでした。そのため、セールスパーソンを育成するための投資は一切行わず、常に解雇し、代わりを採用するという方法をとっていました。この負のサイクルはセールスパーソンにとてつもないプレッシャーを与えていました。

私たちは、このような未熟なセールスパーソンの苦境を責めることはできません。当時は今のように営業で成功するためのプロセスが確立されていなかったからです。現在では、書籍、動画、ブログ、SNS、ポッドキャストなどの豊富なリソースを通して、営業を勉強する機会はたくさんあります。しかし、1930年代後半までは、会社から研修を受けられなければ現場で試行錯誤する以外に術はありませんでした。また、知識がないままの実践は時間と労力がかかるわりに、成功率が低いものでした。

そんな中、デール・カーネギーは、営業のトレーニングを受けている人と受けていない人の間にある圧倒的なギャップを目の当たりにし、何とかしなければと考えました。1912年に研修会社を設立したデールは、長年にわたりリーダーシップの公開講座を運営し、成功を収めていました。幅広い企業や業界からさまざまな人が集まり、同じクラスの同期性もどんどん増えていました。彼の著書、「人を動かす」は1936年に世界的なベストセラーとなり、現在でも常にビジネス書のトップ10に入っています。デールのリーダーシップクラスには大勢の人が集まり、時にはセールスパーソンも受講することがありました。彼らはデールに、営業に特化した公開講座を開いてほしいと熱望していました。

デールはこの声を受け、友人であるパーシー・ホワイティングに相談しました。ホワイティングは1929年までは自身で証券会社を経営していましたが、株式市場の暴落のために会社は倒産してしまいました。しかし、ホワイティングはこの証券会社で、あらゆる営業の経験を積んでいたのです。そこで、1939年にデールはホワイティングに、"多くのセールスパーソンがリーダーシップコースを受講している。セールスパーソンのためのプログラムが必要だ。"と持ちかけたのです。その後、ホワイティングは記者として働いていたアトランタ・コンスティチューション紙を退社し、デールと営業に特化した公開プログラムの運営を始めました。

第二次世界大戦によりこのセールスプログラムは一時中断され、戦後になって再開されました。戦時中には大幅な書き換えが行われ、さらに30~40%ほどもコンテンツを追加し、デール・カーネギー初のセールス教科書が完成しました。更にホワイティングは、1947年に「ザ・ファイブ・グレート・ルールズ・オブ・セリング」(優れたセールスの5大ルール)を出版しました。

デールとホワイティングが始めたセールスコースは、保険の販売をしていたフランク・ベトガーへも影響を与えました。ベトガーは、セントルイス・カージナルスの元メジャーリーガーでした。野球界を去った彼は、1917年にフィラデルフィアのデール・カーネギー・コースを受講するまで、保険の販売ではまったく成果を出せずにいました。しかし、ベドガーはデールの指導の下、自分が野球で成功したのは自身の熱意であると気づきました。その熱意を仕事でも応用し始めた途端に彼は保険の営業としても成果を出せるようになりました。その後、フランク・ベトガー、パーシー・ホワイティング、デール・カーネギーの3人は、それぞれの専門分野に特化したトレーニングを開催しました。ベトガーは「熱意」、カーネギーは「人間関係」、ホワイティングは「営業と組織」について、3日間にわたってトレーニングは開催されました。1947年、デール・カーネギーの強い勧めもあり、フランク・ベトガーは「ハウ・アイ・レイズド・マイセルフ・フロム・フェイリアー・トゥー・サクセス」(私の失敗から成功への道のり)を執筆し、書籍はベストセラーとなりました。ベトガーの脚光は、デールのセールスコースのプロモーションにもつながり、このプログラムは大成功を収め、何百万人ものセールスパーソンを育成しました。

1995年、このセールスコースは「セールス・アドバンテージ・コース」として正式に発売されました。この新たなセールスプログラムは大好評になり、デール・カーネギー・トレーニングは優れたセールス研修を提供することで広く知られるようになりました。2017年、「セールス・アドバンテージ・コース」の改訂に向けた開発が開始され、多くの研究とテストを経て、2018年に現在も運営されている「ウィニング・ウィズ・リレーションシップ・セリング・コース」が発表されました。

デールとホワイティングが作ったセールスプログラムは、現代の「コンサルティング・セールス」と呼ばれるようなセールス手法を教えていました。彼らは時代の最先端を走っていたのです。このプログラムを通して、セールスパーソンは、見込客との信頼関係を構築する方法を学びました。トレーニングを受けていないセールスパーソンに欠けていたのは、クライアントのニーズを引き出すための適切な質問の仕方だったのです。セールスコースを通して、セールスパーソンは質問力を磨き、顧客のニーズを理解できるようになると、自分たちが提供するソリューションと買い手のニーズを整合することに注力できるようになりました。

また、自分たちのソリューションがどのように顧客の役に立つのかを説明する際にも、製品やサービスの特徴とそれが相手にもたらすベネフィットを関連づけて伝えられるようになりました。更には、トレーニングでは、それらのベネフィットがクライアント企業の課題にどのように応用できるのかを説明するように指導しました。この小さな積み重ねにより、セールスパーソンが提供するソリューションがどのように自分たちの組織に貢献できるのかを顧客がより明確に理解できるようになりました。また、過去の成功事例を提示すると、より説得力が増し、購入につながりました。

クロージングの際、もし反対意見が出れば、受講生は決して顧客と議論せずに、代わりに、買い手の反対意見の理由や背景を聞き出すように教えられました。そうすることで、相手の視点からものごとを見ることができ、抱えている課題に対しても適切な対処法を提案しやすくなりました。顧客がどのような問題を抱えているのをかがわかれば、それを解決することに集中し、購買につなげることができるようになったのです。また、クロージングの仕方も、研修を受けていない競合の営業担当者の強引な手法とは異なり、プロフェッショナルなものでした。結果、営業の成功率は飛躍的に上がり、セールスプログラムの多くの修了生は社内でトップのセールスパーソンになることができました。

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