日本企業との商談で信頼を得る ― 「提案型」から「質問型」への転換
はじめに
日本の商談は、複数の担当者と階層構造が関係する複雑な場です。
一人で顧客を訪問する外国人経営者にとって、静まり返った会議室で「発表」を求められる時間は緊張の瞬間でしょう。
しかし、この沈黙の中にこそ、一方通行のプレゼンを双方向の対話に変えるチャンスが隠れています。
一人で参加する商談という舞台
日本では、社長がスタッフを伴って会議に出席するのが一般的です。
同行者の数が“社長の威厳”を示すとも言われます。
私は普段ひとりで商談に臨みますが、それは効率を重視してのこと。
ただし、広い会議室に複数の顧客担当者が整然と並ぶ光景は、少し異質にも感じます。
ミニサマリー:
日本では、ひとりの経営者は目立つ。だからこそ、誠実な関係づくりが信頼を生む。
「ではプレゼンをお願いします」という期待
多くの日本企業では、商談=「営業が話す時間」と考えられています。
担当者たちは静かに聞き、質問もなく、終われば社内で検討。
こちらが質問しても沈黙が続き、やがて誰かが言います。
「とりあえずプレゼンをお願いします。」
その瞬間、会議は従来の「受け身型」モードに戻ってしまうのです。
ミニサマリー:
日本の商談では、質問をする権利は“許可を得て初めて成立する”。
商談前に情報をつかむ準備を
成功の鍵は、会議前の準備にあります。
招集担当者に、参加者の役職・役割・意思決定権を確認しましょう。
もし情報が得られない場合は、名刺交換の際に全員のカードを受け取り、
座席順に並べて役職や部署を把握します。
経営層は戦略を、財務はキャッシュフローを、技術は適合性を、
そしてユーザーは使いやすさを考えています。
ミニサマリー:
会議室にいる全員の関心を理解することが、効果的な対話の出発点。
質問の許可を得る ― 商談を変える第一歩
「プレゼンをする営業」から「聞く営業」へ切り替えるには、最初の一言が重要です。
たとえば、こう始めてみましょう。
「デール・カーネギー・トレーニングは、世界で100年以上、日本では約60年にわたり営業・リーダーシップ・コミュニケーション分野で成果を上げてきました。御社でもお役に立てるかもしれませんが、確信はありません。どの研修が最も適しているかを見極めるために、いくつか質問させていただいてもよろしいでしょうか?」
この一言で、商談の空気が変わります。あなたは“売り手”ではなく、“信頼できる相談相手”になります。
ミニサマリー:
質問の許可を得ることで、営業は一方通行から信頼関係構築へと変わる。
グループ商談の空気を読み解く
許可を得たら、まず司会役の担当者に質問を投げかけましょう。
そこから他の専門担当者が自然と巻き込まれ、必要な情報が引き出せます。
この段階で商談が成立することはありません。
彼らは必ず社内で意見をすり合わせ、合意形成を行います。
営業の役割は「即決させる」ことではなく、「社内検討を進めやすくする材料を渡すこと」です。
ミニサマリー:
日本では、会議後の“社内議論”が意思決定を左右する。
日本市場が教えてくれる「忍耐」という武器
日本での営業は、プレゼン力よりも忍耐力が試されます。
顧客は慎重に意見を調整し、リスクを最小化します。
それは拒否ではなく、敬意と責任感の表れです。
焦らず、誠実なフォローアップを重ねることが、信頼構築への最短ルートです。
ミニサマリー:
スピードは商談を壊し、忍耐が契約を生む。
要点
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日本の商談は「聞く場」であり、「対話の場」ではない。
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参加者の役職・目的を事前に把握することが鍵。
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質問の許可を得ることで、信頼ある関係を築ける。
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会議では決定を迫らず、社内合意を助ける情報提供に徹する。
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忍耐と丁寧なフォローが、長期的な信頼関係を育てる。
デール・カーネギー東京について
次の商談では、まず「質問の許可」を得てみましょう。
相手の沈黙を恐れず、誠実に対話を重ねることが、
日本のビジネス文化における最大の信頼獲得法です。
デール・カーネギー・トレーニングは、1912年米国創設以来、
リーダーシップ、セールス、プレゼンテーション、エグゼクティブ・コーチング、
DEIなどの分野で100年以上にわたり世界中の企業と個人を支援してきました。
東京オフィスは1963年に設立され、日本企業と外資系企業の成長を支え続けています。