プレゼンテーション

キャンセルカルチャー時代にスピーカーはどう振る舞うべきか — 表現の自由と配慮のあいだで

“そのスライドは削除してください”と言われたら、どうする?

あなたは「日本におけるダイバーシティ&インクルージョン」をテーマにスピーチを準備しています。
男女不平等と女性の客体化を示す例として、メイドカフェの写真を使いました。

ところが本番前に、こう言われます。

「その画像は外してください」
「なぜですか?」
「女性の視聴者を不快にさせるかもしれません」

スピーチは録画され、アメリカを含む世界中に配信される予定。
ここで突然、自分も「キャンセルカルチャー」の渦中にいることに気づきます。

ミニサマリー: 文脈的に正しい例でも、画像一枚で“NG”とされるのが今の現実。

キャンセルカルチャーは、プレゼンターに何を突きつけているのか?

日本にいると、キャンセルカルチャーは「海外の話」に見えがちです。

  • 大学キャンパスでの言論対立

  • 過去のSNS投稿の掘り起こし

  • 著名人の発言炎上

しかし、今やビジネススピーカーも例外ではありません。
一度オンラインに乗れば:

  • 文脈を無視した切り抜き

  • 一部だけを見た感情的な反応

  • 意図を知らない人からの批判

にさらされる可能性があります。

ミニサマリー: いまや、ビジネスパーソンのスピーチも“キャンセル”の対象になりうる。

メイドカフェの画像は、なぜスピーチに入っていたのか?

テーマは 「日本のD&I、とくにジェンダー不平等」

構成はこうでした:

  • 森喜朗元首相の「女性は会議で話が長い」といった発言は、儒教的な「女性は男性に仕える存在」という古い価値観の延長線上にある。

  • 現代のメイドカフェ文化も、女性を男性の欲望の対象として扱う一例である。

  • つまり、日本のビジネス界が真のジェンダー平等に到達するには、まだ長い道のりがある。

メイドカフェの写真は、現代の女性の客体化を批判的に示す証拠 でした。
決して賛美でも推奨でもありません。

ミニサマリー: 画像は「問題提起としての証拠」であり、差別の再生産が目的ではなかった。

にもかかわらず、削除を求められた理由

主催側の懸念はこうでした:

  • 「画像だけを見た女性が不快に感じるかもしれない」

  • 「文脈まできちんと聞いてもらえない可能性がある」

要するに、

  • 一部の視聴者は画像だけを見て判断するかもしれない

  • 説明や意図まで追ってくれないかもしれない

というリスクを恐れたのです。

ミニサマリー: 「文脈まで見てもらえないかもしれない」という不安が、先回りの削除圧力を生む。

配慮と検閲、その境界線はどこにあるのか?

この状況は、多くの問いを投げかけます。

  • 内容を削除すると、「浅い理解のまま怒る人」に合わせたことになるのでは?

  • とはいえ、信念を貫いて登壇を拒否すれば、メッセージはそもそも届かない。

  • 強く抵抗すれば、対立構造が激化し、人間関係もビジネスも傷つくかもしれない。

  • そもそも「どこまでOKか」を決めるのは誰なのか?少数の委員会か、大きな声の人たちか?

スピーカーにとって、これは単なる思想論争ではなく、実務的な問題 です。

ミニサマリー: 表現の自由と配慮のバランスを、誰がどの基準で決めるかは非常に曖昧。

キャンセルカルチャー時代に、スピーカーはどう備えるべきか?

私たちはすでに:

  • 注意散漫の時代(Age of Distraction)

  • シニシズムの時代(Era of Cynicism)

に生きています。
そこに 「キャンセルカルチャーの時代」 が加わりつつあります。

その前提で、スピーカーができる準備は:

  1. 最初から「見られる前提」で設計する
    どのスライド・どの例が「切り抜き」に耐えられるかを考える。

  2. 意図を明確に言語化しておく
    「この画像・例を使う理由」「どういう問題提起か」を、主催者と事前共有する。

  3. センシティブな内容は早めに相談する
    直前ではなく、企画段階で合意形成しておく。

  4. 代替案も用意しておく
    カットされた場合でも、メッセージの骨格は維持できるようにする。

  5. 自分なりの“引けない一線”を決めておく
    どこまでなら譲れるのか、どこからは譲れないのかを事前に定義する。

ミニサマリー: 戦略と事前準備があれば、「伝えること」と「リスク管理」の両立はある程度可能になる。

戦うか、引くか――どちらが正解なのか?

今回のケースでは、最終的に画像を削除する選択をしました。
しかし、その決断へのモヤモヤは残りました。

大事なのは:

  • どちらを選んでも「代償」はあると理解すること

  • 感情ではなく、自分の原則と状況に基づいて決めること

  • 同じ立場のスピーカー同士で、この種のジレンマを共有・議論すること

ミニサマリー: 正解は一つではない。ただし、“なんとなく流される”選択だけは避けたい。

要点整理

  • キャンセルカルチャーは、もはや大学やSNSだけの話ではなく、ビジネススピーチにも影響している。

  • 文脈込みで正しい内容でも、「一枚の画像」でリスク判定される時代である。

  • スピーカーには、配慮と表現の自由のバランスについて、自分なりの哲学と戦略が求められる。

  • 事前の共有・代替案・自分のレッドライン設定が、混乱を減らすカギとなる。

ダイバーシティ、リーダーシップ、カルチャー、チェンジマネジメントなど、 価値観に踏み込むテーマで発信する機会が増えている方へ。

👉デール・カーネギー・東京に無料相談をお申し込みください。

デール・カーネギー東京の高リスクテーマを扱うスピーチ設計・メッセージ発信・異文化コミュニケーション研修についてご相談ください。


デール・カーネギー・トレーニングは1912年の米国創設以来、リーダーシップ、セールス、プレゼンテーション、エグゼクティブ・コーチング、DEIなどで100年以上にわたり世界中の企業と個人を支援してきました。
東京オフィスは1963年設立、日本企業・外資系企業のビジネスリーダーの成長と変革を支え続けています。

関連ページ

デール・カーネギー・東京・ジャパンでは、最新情報やビジネス・職場・プライベートの課題を解決する
重要なテクニックなどをご紹介するメールマガジンを配信しています。